人手不足が深刻化する中、ITやデザインなどの専門人材を確保することは、企業にとって年々難しくなっています。こうした課題に対する一つの答えが、「副業人材」の活用という選択肢です。
今回、副業人材の活用経験がない県内企業3社にご協力いただき、実証的に副業人材活用に取り組むプロジェクトを実施しました。
プロジェクトを通じて見えてきた、佐賀に根ざした県内の専門人材と取り組む「佐賀型」副業人材活用の事例とポイントを紹介します。
CASE01:株式会社香蘭社様

副業人材導入の背景
―――このプロジェクトが実施される以前、会社としてどのような課題を抱えていましたか?
私たちの課題は、会社としての意思決定や改善策の実行に十分なスピード感を持てていなかったことです。
老舗の製造業という背景もあり、業務はアナログが中心でした。社内にはデジタル化への心理的な抵抗感が根強く、現場の理解を得ながら進めることに時間がかかっていたのです。加えて、DXの担当者は1名のみで、通常業務と並行しながら改善を推進するにはリソースが不足していました。
その結果、情報共有や業務管理の一元化が思うように進まず、課題の整理から実行、改善までのサイクルを回しきれていない状況でした。
副業人材活用に踏み出した理由
―――今回、副業人材活用に挑戦しようと思われた理由を教えてください。
費用負担が少なかったことが大きな理由です。また、佐賀県から提案をいただき、担当者の熱意に感銘を受けたことも後押しになりました。
副業人材の活用を契機として、老舗企業である当社内の意識変革を促したいという思いから、導入を決断いたしました。
―――副業人材活用について、参加前はどのようなイメージを持っていましたか?
外注でも内製化でもないということで、どこまで課題に深く入ってもらえるか、どこまで依頼すべきか苦慮しました。また、守秘義務の徹底や情報管理の責任が担保されるかという部分にも懸念と不安がありました。
プロジェクトの実行プロセス
―――プロジェクトはどのように進んでいきましたか?
当初はAIを活用したチャットボットの作成を依頼しました。しかしプロジェクトが進み、対話を重ねるうちに、真に解決すべき課題は「チャットボットの開発」ではなく、「社内の労務関連業務に対応でき、情報を一元管理できる仕組みの構築である」と認識しました。そこで依頼内容を見直し、最終的には社内ポータルサイトの構築へと方針転換しました。
―――実際に副業人材と働いてみて、プロジェクト開始前の想像と違った点はありましたか?
想像以上に、自社の考えを整理し、言葉にして伝えることが求められました。
自社として副業人材に課題解決を依頼するのは初めてだったため、当初は試行錯誤しながらのスタートでした。
今回ご参画いただいたお二人には、課題の背景や経緯から丁寧に共有する必要がありました。その過程を通じて、考えを言語化することの重要性を改めて実感しています。

―――プロジェクト開始前、香蘭社にどんな印象を抱いていましたか?
西田さん:もちろん社名は以前から存じておりましたが、当初は正直なところ「有田焼の老舗」という印象が強かったです。老舗の製造業ということもあり、職人の方が多くいらっしゃるイメージが強く、DXが社内に十分浸透しているという印象はあまり持っていませんでした。
矢羽田さん:初めて知った企業だったため、具体的にどのような形でご協力できるのか、当初はイメージが湧きませんでした。
まずは事業内容や現状の課題を伺いながら、自分の経験やスキルがどの部分で活かせるのかをすり合わせていく必要があると感じました。
プロジェクトの成果や社内の変化
―――今回のプロジェクトを経て、何か変化はありましたか?
プロジェクトを進めるうえで痛感したのは、副業人材との対話だけでは前に進まないということです。もちろん副業人材との打ち合わせは大事です。しかしそれ以上に、社内でどれだけ準備を整えられるかが鍵になると感じました。

毎回の社外会議に向けて、事前に社内で話し合う。小さくてもいいから、社内会議を定期的に積み重ねていく。正直、最初は「そこまでやる必要があるのか」と感じる部分もありましたが、実際に取り組んでみると違いました。こうした進め方が習慣になるにつれ、業務そのものの回り方も少しずつ良くなっていく感覚がありました。
ある程度道筋が見えてきたタイミングで、社内の各部署にいる“ITに強い人”に「今、こんなことをやってるんだけど、ちょっと見てもらえる?」と声をかけました。
すると、必要な情報が集まってきて、社内からの協力も得やすくなりました。
待っているだけでは何も動きませんでしたが、自分たちから行動すると、きちんと反応が返ってくる。少しホッとしたというか、「これでいいんだ」と思える瞬間がありました。
結果として、“こちらから発信して情報を取りにいく”やり方は、業務の進め方としても非常に有効だったと感じています。自分たちの中で腹落ちしたのは、「プロジェクトを進める力は、社外の力だけじゃなくて、社内の動き方で大きく変わる」ということでした。
―――今回のプロジェクトを通じて、ご自身の学びや成長はありましたか?
西田さん:今回のプロジェクトを通じて学んだのは、企業からの依頼をそのまま形にするだけではなく、予算も含めた制約条件を踏まえて、現実的に実行できる最適解を一緒に探ることの重要性です。
そのためには企業側としっかり対話し、背景や本音、組織の事情まで含めて共有しながら進めることが欠かせません。成果の土台になるのは、やはりコミュニケーションだと改めて感じました。
また、最終的に選ぶのは企業自身です。こちらが「これが正解です」と決め打ちするのではなく、複数の選択肢を提示し、それぞれのメリット・デメリットを整理したうえで判断していただく。そのためには、提案側も選択肢の幅を持ち、十分な判断材料を揃える力が求められると学びました。
矢羽田さん:依頼された内容をそのまま実行するだけでは、企業の本質的な課題には届かない場面があると実感しました。だからこそ、現状を丁寧に捉え直しながら、必要に応じて提案し、対話を重ねながら共に方向性を組み立てていくことが大切だと学びました。結果として、単なる“受託”ではなく“伴走”として関わる姿勢こそが、成果につながると感じています。
制度や支援への想い
―――今回の経験を踏まえて、制度や支援について感じたことはありますか?
当初、人材活用のお話を伺った際は、どんな人がいるのか全くわからない状態でした。
その中で、適切な人材をアサインしてもらえたのは非常に良かったと感じています。
一方で、スタートの段階で遠慮せずに、思いつくままに要望を伝えられる場があれば、さらに良かったとも感じました。
―――支援側の2人は、制度や支援について感じたことや要望はありますか?
プロジェクト開始後もフォローアップがあり、1人で企業様の元へ行くこともなかったので安心して取り組めました。
要望としては、副業人材を活用したい企業様と、副業に挑戦したい人材とのマッチングを、よりわかりやすくできる仕組みがあれば、双方にとってより有意義になるのではないかと感じました。
今後に向けて
―――今回のプロジェクトを通して気づいたこと、今後の展望について教えてください。また、これから副業人材の活用を検討している企業にメッセージをお願いします。
副業人材を活用し、社外からの視点を取り入れることは、企業の可能性を大きく広げてくれます。
そのためには、社内外でのコミュニケーションが非常に重要です。
どの問題に対して、何を目指して取り組んでいきたいのか。話し合いを重ねながら、方向性を明確にしていく必要があります。
自社の内面を副業人材へ見せることに抵抗感はあると思います。しかし、客観的な視点で見直す良いチャンスでもあります。
さまざまな副業人材を活用して、自社の課題に取り組むことは、自社の未来を切り開くことになります。その一歩が、次の可能性を広げていくのではないでしょうか。
―――西田さんからもメッセージをお願いします。
最初は企業様の役に立てるか不安でした。しかし、悩みに耳を傾け、自分にできることから行動したことが結果につながったと感じています。
悩むよりも、まず行動することが大事です。
コミュニケーションをしっかり取って、一緒に悩み、一緒に解決していく。そのプロセスをも楽しんでもらえたらと思います。
―――矢羽田さんからもメッセージをお願いします。
「スキルや資格など証明できるものがなければ、副業は難しい」と思いがちですが、そんなことはありません。
自分ができそうなことから一歩ずつ踏み出し、続けていくことが大事だと思います。
これまで積み重ねてきた経験が、思わぬ形で誰かの役に立つことがあります。あまり構えすぎず、今まで培ってきたものの中から一歩ずつ挑戦してみてはいかがでしょうか。
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